トラウマの精神分析的アプローチ (単行本)
こころの臨床に臨む私たちには,患者の訴える,あるいは症状として表わすトラウマだけを見るのではなく,苦痛を訴え苦悩するその人を見つめ,苦しむこころに触れ続けることが必要となる。
本書ではまず,精神分析におけるトラウマ理論・治療の歴史を概観し,ストレス障害という語の実態に迫り,また,患者との出会いの場面で不可欠となる,その人がトラウマを経験している可能性を考慮したアセスメントについて学ぶ。実際の精神分析的治療については,9編から成る豊富な実践例や応用編を通して,幼少期の虐待や喪失体験,複雑性PTSDや解離の症状といった多様な病態に存分に触れることができる。
第一線で分析的治療を実践し続ける臨床家たちによるトラウマ臨床の手引きとなる一冊である。
第Ⅰ部 総説
第1章 私説:トラウマの,トラウマによる,トラウマのための精神分析:補永栄子
第2章 トラウマのメタ心理学―「外傷化したこころ」のβ要素とα機能に焦点を当てて:松木邦裕
第Ⅱ部 アセスメント
第3章 トラウマのアセスメント―トラウマを個人の体験から理解すること:菊池恭子
第4章 被害者が患者になるということ―欲動論から考える:児島ゆう子
第Ⅲ部 精神分析的心理療法の実際
[心理療法の実践]
第5章 亡霊と生き直す:岡本亜美
第6章 ことばで語られないところから外傷体験を理解する―面接空間での体験を通して:高澤知子
第7章 トラウマと喪の作業迫害的な罪悪感に支配された―心の運命と希望としての精神分析的心理療法:山﨑孝子
第8章 こころの成長とトラウマ:山本慎治
第9章 静かなるトラウマ:富田悠生
第10章 トラウマの内的表象の変化や重なりによる重篤化:石井洋美
[心理療法中断例から学ぶ]
第11章 愛情剥奪によるトラウマと精神病状態の心:長沼佐代子
第12章 憤懣と憎しみの中を生きぬくこと―思春期・青年期症例から:太田百合子
第13章 愛しさという逆転移:小尻与志野
第Ⅳ部 マネージメント
第14章 トラウマの精神分析的治療におけるマネージメント:岡村斉恵
第Ⅴ部 精神分析の応用
第15章 災害支援と精神分析的アプローチ―困難な地にこころを差しだし続けること:岩倉拓
あとがき:松木邦裕